小さな民意が届くようになる“パブリック・コンサルテーション2.0”

皆さんは「パブリック・コンサルテーション」という言葉はご存じでしょうか?

パブリック・コンサルテーションは、英国ブレア政権が採用している手法で、政府から政策原案を関係団体に送付するとともに、ホームページなどにも掲示、そこから意見を募集して政策案に反映していく一連のプロセスのことを指します。日本でも使われている手法ですが、積極的に意見や声をあげる人は多くないと思います。

しかし、コロナ禍で全国民が経験したように、政府や自治体の政策は人命や生活に直接大きな影響を与えます。より公平で適切な政策形成は、一部の政治家だけ、一部の団体だけ、一部の有識者だけでは実現できません。国民の一人一人がどのような制度や対策が必要なのか、常に声をあげ、様々なステークホルダーと試行錯誤しながら解決策を模索していく必要があります。

では、なぜ声をあげる人が少ないのでしょうか?それは「パブリック・コンサルテーション」そのものの認知度が低いこともあると思いますが、より大きな問題は「どうせ声をあげても無視される」「少数派の声は届かない」と皆さんは思っているのはないでしょうか。

国民一人一人の声や、少数派の意見は、政府・企業・学校問わず、何らかの組織である以上、どうしてもピラミッド構造で役割や情報が統制、淘汰され、上層部に届きにくい傾向があります。さらに、少数派の声が集まらないことで顕在化されていない、存在していないとみなされてしまう可能性もあります。このようなことは社会人であれば一度は経験しているのではないでしょうか。しかし、ここで最も危険なことは、この状態で長く生活してきた我々は、既にこの不条理な状況に慣れてしまっていることが問題だと思います。

今日に至るまで、この問題は解決されておらず、様々なところで取組みをしていますが、やはり、十分な情報を得ることは難しい状況が続いています。例えば、●●連合会、●●協会、●●団体など、産業や業界別に関連団体があり、彼らはそれぞれ業界を代表して声を集め、政府に届ける努力を続けていますが、世の中にある全ての声を集めることはできません。とある官僚の話では、各種団体はその業界の代表として極力多くの声(意見や要望)を集めていますが、それでも全体の数%の声にすぎません。そうした情報をもとに「政策を決めて良いのだろうか?」「残りの大多数の人たちにとっても良い政策になるのだろうか?」と不安視していました。

調査や統計など、様々な手法を活用して情報を集めることはできますが、誰一人取り残さない政策を形成することは極めて困難な作業であり、新しい技術やより進化した仕組みを活用しないかぎり、この問題は解決できません。

一方、テクノロジーを活用したパブリック・コンサルテーションは数多くあり、今年立ち上がったデジタル庁も「アイデアボックス」や「デジタル改革共創プラットフォーム」など開設して、より円滑に国民の声を募集し、政策に反映する仕組みを導入しています。※1

また、東京大学と電通PRはAIを用いたTwitterデータ分析と国会議員向けに行ったある調査によると、特定のコミュニティで話題になっている課題よりも、つぶやき数が少なく広く分布している課題の方が、国会議員に十分に認識されておらず、声が届きにくいことが明らかになりました。さらに、つぶやきが広く分布している潜在的な課題は、課題解決に必要とされる情報へのニーズも低いことが分かりました。

つまり、本当に困っているところよりも、それほど困っていなくても、声の数が多ければ、あだかも困っているように見えてしまうことを意味しています。国会議員の回答者の約80%がイノベーション政策を考える際に、データに基づくエビデンスを求める一方で、こうした必要な情報が不足しているとした議員も約80%を超える結果となりました。※2

このように、小さな声や少数派の意見を政策に反映させることは非常に難しく、適切な情報収集と分析が必要になります。しかし、創意工夫をすれば、社会のシステムとして、国民一人一人の声を効率よく収集し、誰一人取り残さない政策に反映することは十分可能だと思います。

近年デジタルツインやメタバースで言われているように、近い将来、現実世界と仮想世界がシームレスに繋がり、暗号化技術や人工知能によって、様々な個人情報やデータの扱いは飛躍的に進化していきます。そして同時にお年寄りや目が不自由な方など、デジタルデバイトの問題も同時に改善されてなければなりません。新たなデータ活用のルールに則って、一人一人の声や行動など、社会活動の全量データを収集、分析、活用できるような仕組みが構築される日も近いのです。

もしそうなれば、一人一人の声を政策に活かせるだけではなく、企業にとっても大きなビジネスチャンスだと思います。今まで顕在化しなかった新たなニーズやマーケットを発見し、社会貢献や収益につなげることができるようになります。

例:

政府:社会活動の全量データを活用して、誰一人取り残さない政策を形成できるようになる。

企業:AIを活用して仮想人格や仮想商圏でテストマーケティングできるようになる。

生活者:アレルギー情報は言語問わず、スキャンするだけでお店が対応できるようになる。

近い将来、今まで見過ごされてきた小さな声や少数派の意見は、今後、新たな民意、新たな市場、新たな価値として認識されるようになり、「パブリック・コンサルテーション2.0」の時代を迎えるかもしれません。

※1デジタル庁(外部リンク):https://www.digital.go.jp/get-involved

※2電通PR(外部リンク):https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/180727.html

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