「ローカルディアスポラ」を掘り起こして地方創生の人材として活用する
ディアスポラという社会学用語があります。本来はパレスチナ以外の地に移り住んだユダヤ人とその社会を指す言葉ですが、今はユダヤ人に限らず、故郷や祖先の地を離れて暮らす人やコミュニティー、例えば、世界中に散らばるアフリカ出身者、華僑などにも当てはめて使われています。様々な技術発展や法制度の変化もあり、人の移動ははるかに流動性が高くなった今や、日本でも家族や親せきが何世代も海外に居住しているという人も、今や珍しくありません。ディアスポラは割と身近な話でもあります。
こうしたディアスポラ当事者が、居住国で身に着けた知識や経験を本国で生かすというケースが見られます。とりわけまだまだ発展途上にあるアフリカでは、かつて難民や移住といった形で本国を離れた人材が本国に戻って、経済発展に貢献しているのです。25年間の平均経済成長率が7%、アフリカ屈指の情報通信立国となっているルワンダは良い例でしょう。
さて、ディアスポラを国ではなく、地域という単位で見てみると、かなりの多くの人にあてはまりそうです。自身が進学や就職で出ただけでなく、年に数回帰省する両親や祖父母の出身県に心理的な愛着や、地元意識を持っている方も少なくないでしょう。その一方でそうした血縁を通じて感じる“ふるさと”が、祖父母や親せきがいなくなることで、薄れていくことも多くあります。
現状の日本の人口動態を見ると、日本のほとんどの道府県が転出超過になっている一方で、東京圏は24年連続で転入超過となっており、国の重点課題になっています。いわば、日本の多くは「ローカルディアスポラ」な人々なのです。
今や、多くの地方自治体が地域活性化に向けて、職住環境を整備しています。テレワーキングの施設、子育て施設などを充実させて、若い世代を取り込もうとしている自治体も多くあります。そのためIターン、Uターンフェアといった移住促進のイベントも頻繁に行われています。
ここにローカルディアスポラの視点を持ち込めないでしょうか。かつて父母や祖父母が住んでいて、今はもう血縁者は住んでいないけれど、なんとなく縁を今でも感じるといった人を人材として迎え入れるのです。今後、戸籍データのビッグデータ分析による活用が進めば、自治体もこうした人々をより捕捉しやすくなるでしょう。その地に実は縁がある人を探し出し、様々な事業開発や地域の抱える諸問題に手を貸してもらう、場合によっては移住してきてもらうのです。今までは漠然とした“ふるさと”という思いをデータによって可視化し、活用することは、地方創生のチャンスとなるでしょう。