1億人認知症 AIが架け橋になる"サステイナ・ブリッジ"

認知症と診断された88歳の父が「廊下の先に怪しい人がいる」といいます。よく見たら、黒いセーターが棚にあって、人の頭にみえたようです。私がそういう と、父は「そうか。見え方が、ぜんぶ平坦にみえる。必要なものが見えるように脳がセットしない」と。ほう、と思いながら私はいい ました。「最近、認知機能が落ちたお父さんのような人の目を通して見える世界を学ぼう、という“認知症フレンドリー”という動きがあるんだよ」。

すると父は、ゆっくりと時間をかけながらも、こういいました。「それは人類の進化になるな。超高齢になる世の中で、互いにわからないことを、わからないままにしないことは、分断による悲しみをなくすことで、人類がさらに存続していく知恵になる」と。ほうほう、と私。さらに父は「いいこというだろう?」と、にんまり。 

このエピソードは、認知症の人びとの視点や経験を理解し、個別に持つ独自の知恵や価値を、周囲の人が認識する重要性を実感させるものでした。 

認知症は2050年には、世界で1億人*を超えるといわれています。日本は、これに先駆けて超高齢化社会に突入し、重度にかかわらず認知機能の低下がみられる高齢者が増加をたどるでしょう。将来の高齢者は、要介護者の割合が増える中で、在宅で自立した生活を送ることが一般的になると予測されます。高齢者を取り巻く生活は、これまで以上に変化し、高齢者自身のみならず見守る側にとっても、支援やサービスの提供方法の進化が急務です。

認知症は個人の視点や経験が変化し、コミュニケーションしにくくなる病気です。認知症の人びとの目を通して世界を理解することは、認知症フレンドリーな社会を築くための第一歩です。ところが、周囲の人が、本人の経験や感情に共感し、偏見や先入観を乗り越えて、相互理解をはかるのは至難の業です。

その点でいうと、ダイバーシティやサステイナブルな社会実現で目指すコミュニケーション上の課題に似ているところがあります。個人と社会の間に信頼と共感を築く架け橋(サステイナ・ブリッジ)があれば、認知症になったからといって、世間と線引きをするのではなく、高齢者と認知症の人々の経験と知識を尊重する社会の実現に前進できるのではと思います。

サステイナ・ブリッジという架け橋の役割は、人間とAⅠの連携によって可能性があります。AⅠを活用した音声認識や自然言語処理、画像認識技術により、認知症の人びととのコミュニケーションを支援する開発されると、どうでしょうか。 

現在、介護の現場で行われるケアプランの多くは、「判断しにくいだろう」ということで、本人でなく家族に提示され進められることがあります。家族とて、本人にどう良いのかがわからず、また一様に無難なプランになることが往々としてあります。

近い将来、AⅠが架け橋になり、大量のデータを処理し、特定のニーズ、嗜好性や状態に基づいた適切なアドバイスやガイダンスを提供することで、本人の経験や好みが配慮されたプランの作成と手ごたえのある本人への提示が可能になるかもしれません。認知症の人びとが自宅で生活する場合に、サステイナ・ブリッジ機能をもつAⅠアプリひとつあれば、認知症とその家族やケアラーにとって多いに役立つことでしょう。 

とはいえ、こうして万能にサステイナ・ブリッジ機能を果たしてくれるAⅠでも、人間の特定 な関係性からくる経験や感情には、完全に対応できないに違いない、と考えたいものです。そこは、わたしたち人間の出番です。AⅠが補完的な役割を果たしてくれるからこそ、周囲の人が共感、柔軟性をもって、人生の終盤に差し掛かる高齢者に対して、本来、果たすべき役割を果たせる喜びとともに、わたしたちの社会を進化させることになるでしょう。

※注釈 2015年発表厚生労働省「新オレンジプラン」によると、認知症有病率が上昇する場合2050年に1千万人、認知症有病率が一定の場合 2050年に800万人と予測しています。また、2022年発表 世界疾病負担研究(GBD)認知症予測研究者グループによると世界の認知症患者数 2050年に1億5280万人と予測しています。

 

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