AIは何の仕事を代替し、「同僚」たり得るのか

未来予測によく出てくるAIが浸透した社会像。社会の至る所にセンサーネットワークが敷設され、そこからのデータをAIが分析し、スマートな街の運営を実現する…や、AIが先生役になってくれる、秘書の代わりに仕事のアレンジをしてくれる…などなど、AIが社会の中軸を担うという描写は、よく見られる姿です。実際にAIにより社会の生産性が向上するのは良いことであると思います。

一方で、それと同時並行的に行われていのが、「それが人間の労働をどこまで代替するのか?」という議論です。

この議論の焦点にあるのは、人間の労働がAIによって奪われてしまうのではないかという懸念でしょう。

元々、AIによる労働の代替性がクローズアップされたのは、2015年に野村総合研究所がオックスフォード大学のオズボーン教授らと取りまとめた「日本におけるコンピュータ化と仕事の未来」[a] からです。その研究を解説した野村総合研究所の資料「AIと共存する未来 ~AI時代の人材〜」[b](厚生労働省の2017年の研究会に提出されたもの)が分かりやすいですが(下記に図表を引用します)受付・清掃・配達・運転手などのオペレーション管理の仕事、さらには人事・会計・総務などの一般事務員や、法律・会計などの専門職についても、コンピュータへの代替性が高いと指摘されています。

その一方で、代替可能性が低い職種としては、航空機操縦職、医師、弁護士、大学教授などがあると指摘されています。

一般的には「単純作業に類する作業は、AIやロボットに代替される可能性が高いが、創造的思考、他者との協調やコミュニケーション、非定型業務が要求されるような作業領域はAIやロボットが不得手な領域で、人間が得意な領域のため、そちらに人間の役割をシフトしていくべきだ」等の議論がされています。この辺りは、指摘されるとおりの特性の違いであり、まっとうな意見でしょう。

しかしながら、ここで注目すべきは、上記の研究は「代替できる可能性が高い確率」を示しているだけであり、それが「本当に人の業務全てを代替できるのか」「AIの導入が経済的にペイするか」という議論とは別問題であることです。

例えば、俗に言うきつい・汚い・危険といった3K労働は、将来的にロボットに代替された方が良いと思われますが、このような職種の業務ほど、ロボットでの作業代替が難しい(現場あわせの判断が多い)側面があります。それもAIやロボットでの代替をしようとすると、開発費が掛かり、本来コストを下げる効用も期待されるAI化が結果的に高コストとなってしまいます。そうした場合、人間が行ったほうが早いため、AI化が進まない事態も想定できます。

特に我が国の場合、契約やルール通りに対応する(杓子定規な対応をする)よりも、現場の判断で柔軟な対応をすることも多く、それが潤滑油となって社会の効率性を高めていると言われますが、そのようなルール外の対応はAIには不向きとなる可能性もあります。

一方で、クリエイティブさや、専門性の高さが要求され、人間の役割が高いと判断されるような経営・法務・企画業務の方が業務の定型化がやりやすく、かつ膨大な過去の業務蓄積を教師データとすることで、AIのほうが人間よりも優れた判断が出来る可能性があります。少なくとも最終意志決定者以外のスタッフ職は、AIが代替していくことも十分考えられるのではないでしょうか。

ホワイトカラーの業務の多くは,法規制対応などもあり、企業間を跨いで業務プロセスが標準化されている(もしくは、行政機関のDX化で定型化されていく)部分も多くあります。現状でも各種のクラウドSaaSの業務支援系サービスが好評で契約数を伸ばしていますが、異なる企業間でも同じサービスを活用できるならば、開発コストも回収できるため、製品化を行う企業も増えると期待されます。

このように見ると、一般的な見方とは異なり、AIが浸透した未来での仕事は、実はホワイトカラーなどの「スタッフ的職種」はAIに代替され、重要な意志決定は人間が行うスタイルになるため就業者数は減少する一方、現場作業は、人間が主軸となり、職人的なすりあわせを行いながらも、AIを活用して安全かつ効率的に作業を実現する(作業安全のチェックAIや外部骨格ロボットなど)といった様相になるのかも知れません。

このように、人間の労働とAIは完全な代替関係になく、相互補完関係にあるとみるべきでしょう。そうなると、AIと人間が組織内で共存することになってきます。ここで注目されるのは、AIは「機械」として見られるのか、それとも人と同じような「同僚」として認識されるのかというポイントです。

総務省の情報通信白書(平成28年版)で紹介されている調査研究「ICTの進化が雇用と働き方に及ぼす影響に関する調査研究」(総務省、平成28年)に興味深い調査結果が出ています。

日本と米国で、AIを仕事のパートナーとするという設問に対して、米国の方が「抵抗がある」と回答しているのです。もちろん、日本でも「上司」にAIを据えることについては抵抗感が非常に強いのですが、同僚、部下については抵抗感がないとの回答者が半数を超えています。

この研究では、日本においてはAIは「仕事を手助けしてくれる存在」として認識される一方で、米国ではAIを「(能力主義・実力主義社会で)自分のキャリアアップのライバル」として捉える傾向があると指摘しています。AIと一緒に仕事をしていく時代がすぐ近くまで迫っているのであれば、意外に超えなければならない壁は、その国々における文化的な背景にあるのかもしれません。

 

[a] https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/journal/2017/05/01J.pdf

[b] https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12602000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Roudouseisakutantou/0000186905.pdf

 

 

 

 

 

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