【第二回】お祭りとイニシエーション
渋谷ハロウィンはお祭りか
市原:今回は、行き過ぎた騒動について議論します。渋谷のハロウィンやフーリガン等は、面白がる若者もおり、遠方からも人を集めるパワーを持っています。これらは、お祭りと言えるでしょうか。
黄太郎:お祭りと捉えている人は多いと思います。彼らは、夏祭りなどにあまり参加しないのではないでしょうか。夏祭りが、たまたまハロウィン等になっているのではないか、と感じます。
市原:では、なぜ彼らは夏祭りに行かないのでしょうか。お祭りが、身近ではないのでしょうか。
黄太郎:例えば、神田祭りや三社祭りは、住人にとっては当たり前のお祭りです。しかし、住民に知人がいなければ、参加は難しいのです。参加方法などの情報は流通していません。一方のハロウィンは、日程が公表され、コスプレするだけで成立するため、非常に参加しやすいものです。
村越:ハロウィンもフーリガンも、気分が少し違うモードになっています。人類学で言うイニシエーションとか、何かの若者の儀式のようでもあります。彼らがワーっとなっているのは、ある種憑依され、異界に行っているような感じですね。
市原:周囲が見えなくなる熱狂も、盛り上がりの一つの指標です。熱狂することで、コミュニティーとの一体感が得られるのですね。
騒動のコントロール視点
“Shibuya Halloween 2018 (October 31)” by Dick Thomas Johnson is licensed under CC BY 2.0
市原:お祭りへの参加はコミュニティーへの参加儀式の一つにでもあります。ただし、行き過ぎた部分の調整は必要です。これは、第一回のフーリガンの話にヒントがありました。若者中心であるならば、子供やお年寄りまで、多様な世代が参加できるオープンなものへの変更は、一つの解決策です。
黄太郎:そうですね。オープン化は一つの視点です。
ただし、オープン化の影の部分にも触れたいと思います。盆踊り乱交の民俗学という書籍からのご紹介ですが、かつての日本は性に開放的であったとされています。なぜ現代と異なるのかというと、技術の発展があります。明治以降の交通網の発達が人々の往来を生み、地域内の風習が地域外の人の目に触れるようになりました。その結果、地域内の乱れたものを外に見せないという理由で、盆踊り禁止令のようなものが出始めたのです。これは、技術の発展が、地域内の交流や民族性も変えてしまうという話です。
近い例では蘇民祭があります。そもそも裸でやるお祭りだったのですが、報道やインターネットで紹介されるに従って、裸を報道するなという指導が入ります。駅のポスターが問題になり、少し毛深い男性の写真でさえダメという話になりました。技術の進化や情報の流通は、お祭り自体を変えてしまい恐れがあるのです。
市原:オープン化は万能ではないのですね。オープンにしないことで守る、その線引きの熟考も必要となるのでしょう。それでも、渋谷の例をはじめ多くのお祭りで、オープン化は重要な視点です。
澁川:私もそう思います。すでに地域社会は過疎化が進んでおり、そのコミュニティーの維持が難しくなっています。青年会といっても60代が主力で、域外から人を呼び込まないと地域のバイタリティーを維持できません。そのため、お祭りもオープン化し、観光資源として活用しつつ、若者を呼び込む必要があります。
市原:渋谷については、この他、地形など空間の問題も忘れてはいけません。スクランブル交差点がある駅周辺は、窪地で交通の結節点のような場所です。ここに人が集まると、当然に交通も麻痺し、身動きが取れない中で人が溢れる、負の連鎖につながります。この空間の分散も課題です。
トマト祭りはオープン化の参考事例
加藤:スペインのトマト祭りを紹介します。現在、トマト祭りは、参加人数の制限が設けられ、事前予約制に移行し、さらに参加料も必要です。しかし、この参加料が清掃費に充てられ、観光収入の増加も加わったことで、同地域では減税が実現されています。その結果、トマト祭りは、地域住民から温かく見守られる存在に変わったのです。一定の制限は設けましたが、参加者が目いっぱい発散できる環境を整えています。
“La Tomatina (25.08.2010) / Spain, Buñol” by flydime is licensed under CC BY-SA 2.0
市原:手続きの手間はあるのですが、発散方法はとってもシンプルで、子供時代に親しんだ泥んこ遊びと同じですね。
その他、USJが始めた新しいストリート・パフォーマンス、観客がパフォーマンスに参加するイベントも参考になります。第一回で、お祭りは地域内で参加するものから始まり、見せる視点が加わって、大規模化してきたという話がありました。新パフォーマンスは、大規模化したお祭りへの参加価値の問い直しです。加えて、このパフォーマンスをパーク内の様々なストリートで多発させています。偶発性によって、回遊を期待しているのではないでしょうか。
これらの事例に、渋谷での騒動のコントロールのヒントがあるのではないでしょうか。
渋谷にある複数の公園等を活用し、各々仮装プログラムを企画する。
その際、人の回遊や偶発性を期待するため、詳細なタイムテーブルを設定しない。
★参加者のオープン化と昼からの連続性
子供などを昼間の仮装を積極的に呼び込み、昼と夜を一体化する。
★参加料の徴収するときは、エンタメに投資
清掃費の他、更衣室などの参加者が楽しむために必要なものに使い、還元する。
(第二回了:第三回は「お祭り企画はコミュニティー作り」)