第5回 未来を予測することの意味

今回は、改めて「未来を予測することの意味」について考えてみましょう。
そもそも、私たちはなぜ未来を予測したいと考えるのでしょうか。おそらくそれには2つの意味があります。ひとつは、「リスクを低減したい」ということ。未来にどのような事が起こり得るか、それを予め知ることが出来れば、影響を最低限に抑えることが可能となります。地震や異常気象などによる災害リスク、地政学的変化に伴う国際関係リスク、株価や為替リスクなどのファイナンスリスクなど、私たちを取り巻く環境は常にさまざまなリスクに満ちています。そうしたリスクを少しでも低減させるために、わたしたちは先物取引やリスクアセスメントといった各種リスクヘッジ方法を生み出してきました。
 そしてもうひとつが、「ベネフィットの最大化」です。「リスク」と「ベネフィット」は、ある意味で対となるものです。未来の状況を見通すことにより、今後得られる便益を最大化したい。新商品開発や新規事業へのチャレンジは、未来の変化を見据え、そこに潜在的に存在するマーケット・ニーズをいち早くつかみ取ろうという行動に他なりません。
未来を予測したいというニーズは、こうした将来における「リスクを低減したい」、「ベネフィットを最大化したい」という欲求の表れに他なりません。

しかし、そもそも私たちは未来を確実に予測することが可能なのでしょうか。結論を先に申し上げれば、確実性が担保出来る予測は、ほぼ不可能と言って良いでしょう。しかし、「確実な未来の姿」は不可能だとしても、もしかすると「起こり得る未来の姿」は、炙りだせるかもしれません。

未来を炙り出していくためには、単なる思いつきや発想で未来を考えてはいけません。未来を明らかにするためには、一定の未来予測に関するメソッドや方法論を活用して行く必要があります。そうすれば、解像度は低いかもしれませんが、一定程度の未来の姿を表現していくことは可能になるのです。
では、それをどうやって進めて行けば良いのでしょうか。そのための具体的方法については、連載第8回以降で紹介して行く予定ですが、ここではそのアウトラインのみ示しておきたいと思います。

われわれは望遠鏡で眺めるように未来を見通すことは出来ません。しかしその一方で、過去や現在に起きた事象を、わたしたちは知ることが出来ます。過去と現在の流れの先に未来があるのだとすれば、未来を知るための手がかりは、過去や現在に存在するとことになります。これを自動車の運転に例えると、バックミラー(過去)やサイドガラス(現在)を眺めながら、「見えないフロントガラスに何が映っているのかを判断し、運転する」ということが、すなわち未来を調べることになります。

また、未来を理解すると言うことは、予測される未来の姿にそのまま従属的に従うということではありません。むしろ、現在知り得る未来の姿に対し、これからどのような主体的なアクションを起こしていくかを考えるために、わたしたちは未来を知る必要があるのです。その意味において、未来を考えることは、際めてクリエイティブで創造的な作業であると言えます。

誰もが知り得ていない未来の可能性を構想するためには、ある種の「直感力」や「アイデア力」、自分自身がこうした未来を築き上げたいという「願望」や「意思の力」も非常に大切になってきます。客観的なデータや情報も大切ですが、それを前提としつつ、更に「オリジナリティの高い未来を構想する力」が求められています。そのような意味において、「ビジョン構想力」や「アイデアの力(アイディエーション)」も重要と言えるでしょう。
こうした未来を考えるためのステップを本書では、「フレーミング」、「スキャニング」、「フォアキャスティング」という「未来を構想する力」を得るための3つのステップに加え、「ビジョンニング」、「プラニング」、「アクション」という「望ましい未来をつくり上げていく」ための合計6つのステップで考えて行きます。

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