“ユートピア田園都市化“を加速させるパンデミック

COVID-19によるパンデミックを契機として、改めて公衆衛生の重要性が唱えられています。

一般に公衆衛生とは、“人間が健康に生活できるための組織的社会活動”を指しますが、この公衆衛生の歴史を振り返ると、まさにそれは社会の近代化の歴史とともに進んできたことに気づかされます。公衆衛生を考える際の重要な概念は、「交流」と「都市化」という2つのキーワードです。

世界最初のパンデミックは14世紀の中世に起こったペスト(黒死病)ですが、これは十字軍の遠征や交易によってもたらされたものでした。また15世紀コロンブスによるアメリカ大陸の発見は、同時に欧州に梅毒や結核、天然痘を広める結果となりました。これらはいずれも、「交流」によってもたらされたものです。

こうして「交流」によって厄災がもたらされるとすれば、それを拡散するのが「都市化」です。18世紀の第一次産業革命下のイギリスでは、コロナなどの伝染病が蔓延しましたが、これは工業化による急激な都市部への人口集中と生活環境の悪化によってもたらされたものであると言えるでしょう。

「交流」が進むことで感染リスクが高まり、「都市化」が進むことで拡大リスクが高まる。こうした状況は21世紀の現在でも同じと言えるでしょう。

また、一方でこのような潜在的リスクの高まりに対して、伝染病の原因となるさまざまな病原菌の発見と療法開発、都市衛生を保つための上下水道などの環境整備、環境安全を保つための法的整備など、人類は順次、感染と蔓延を避けるためのさまざまな工夫を重ねてきました。

しかし、数世紀にわたる衛生対策を重ねていても、完全に感染リスクを拭い去ることは困難であることを今回のCOVID-19は私たちに知らしめました。

さて、こういった環境下で、次に私たちが打つべき次の一手は何でしょうか?

先に述べた「交流」と「都市化」というキーワードに依って考えてみると、オンラインにより物理的「交流リスク」を下げることができたのは、近年の技術進化の一定成果であったと言えましょう。V R・A Rなどのデジタル技術の進化は、さらにこの「交流リスク」の低減に貢献することでしょう。

一方で、「都市化」リスクは、今回のパンデミックでリスクそのものが大きく露呈し、その解決策は未だに提示されておりません。都市に住まいながら、人々は外出を控え、自宅に引きこもり、経済を停滞させたのでした。

こうした中、個人による田舎暮らしなどのトレンドは見えてはいますが、これは根本的な解決にはほど遠い。政策的に構造的な都市の分散化施策も検討していくべきでしょう。

都市集中ではなく、適度な都市分散施策を最初に唱えたのは、英エベネザー・ハワードによる“田園都市”構想で、これは第1次産業革命下のイギリス大都市の弊害を都市分散、工業分散により解消しようとするものでした。

“田園都市”というキーワードは、現代社会においてもある種のユートピア的イメージを保っています。21世紀のユートピアとしての“田園都市”のあり方を、今私たちは再び真剣に議論すべき時期に来ているのではないでしょうか。

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