AIが実現する"コピー脳"と"組み合わせ脳"

人間の脳は、どの脳の部位であっても、聴覚と触覚、ブローカー野、運動野、あらゆる他の部がよく似ているため、基本的な処理は同じなのではないかということが言われています。そこから知能の本質はパターン認識であり、パターンさえあれば知能が生まれるということが提唱され、人口知能の大きな発展につながりました。※1

人工知能の次のステージは、どこに来るのかと考えた時に、案外、偉人など個人の知能を再現することは遠くない未来に実現するかもしれません。今日、個人の発言がSNSやデジタル、或いは音声データとして残っていることを考えれば、その特定の個人がどのような発言をするか予測し、質問に対する会話を予測・再現することは難しくないと思われます。そのような特定の個人の知能を再現した人工的な脳(コピー脳)ができれば、私たちは死別した家族と会話をしたり、偉大な先人たちからアドバイスをもらうことができるようになるでしょう。

また知能と同様に、イノベーションの本質も組み合わせであり、レゴのような組み合わせからイノベーションが生まれると考えられるようになりました※2。複数のコピー脳が生まれると、それを組み合わせることができるようになります。たとえばアインシュタインとエジソンを組み合わせたるなど、複数の知能を組み合わせると、どのようなイノベーションが生まれるのか。また自分自身の「コピー脳」を作って、他の「コピー脳」と組み合わせた時の「組み合わせ脳」のパフォーマンスを測ることで、自分が誰と話をすると、より生産的な結果が得られるのかが分かるようになります。

このような人格性(個性)を持った「コピー脳」と「組み合わせ脳」の誕生によって、人口知能の活用は新たなステージを迎える可能性があると思われます。そのような技術の普及は、イノベーションを加速させ、社会全体の教育水準を高める可能性があります。一方で、皆が同じ「コピー脳」(たとえばアインシュタイン)から教育を受けるようになると、社会の多様性が失われる懸念もあります。誰の「コピー脳」を使うか、誰と誰を組み合わせた「コピー脳」をつくるかについて、効率性だけでなく多様性の観点から評価するような仕組みも同時に考える必要があるかもしれません。

※1『考える脳 考えるコンピューター』ランダムハウス講談社(ジェフ・ホーキンス)など

※2 『相対化する知性 人工知能が世界の見方をどう変えるのか』日本評論社(松尾豊、西山圭太 他)など

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